March 2, 2026

青野 さや香さん
愛媛県西条市役所に所属する行政職員。
西条市 環境政策課にて、地下水をはじめとする水資源の保全や、森林・里山環境に関する施策を担当。
名水「うちぬき」を将来にわたって受け渡していくため、地下水保全条例や「育水」という考え方を軸に、市民・事業者との対話を重ねながら環境政策に取り組んでいる。
拠点:愛媛県西条市
所属:西条市 環境政策課
関連リンク:バーチャルミュージアム「水の歴史館」
ーーーーーーーーーー
西条では、地下水は特別なものではない。
蛇口をひねれば出るし、井戸を掘れば湧く。
うちぬきは観光資源である前に、日常の風景だ。
けれど、その水がどこから来て、どうやって保たれているのかを、私たちはあまり知らない。
山から地下へ、時間をかけて巡る水。
目に見えないその動きを、静かに見続けている人がいる。
西条市で地下水に関わる業務を担当する青野さんに、この街の水の仕組みと、今考えていることを聞いた。
ーーーーーーーーーー
西条市の地下水は、石鎚山系に降る雨や雪から始まります。
「西日本最高峰の石鎚山を含む山々に降った水が、長い年月をかけて地下を通り、平野部に到達します」
平野部には、水を大量に蓄えることができる帯水層が存在している。
「恵まれたことに、平野部に水を溜められる地下構造があります」
その帯水層に水が蓄えられ、条件が整うことで自噴が起きる。
「それが西条のうちぬきです」
もうひとつの条件が、山側の降水量だ。
石鎚山系は、平野部のおよそ3倍の雨が降ると言われている。
「地下構造と降水量、その両方が重なって、今の地下水があります」
地下を通る過程は天然のフィルターのような役割を果たす。
「地下で磨かれて、平野部で湧き出します」
山に水があるだけでは足りない。
平野部に蓄える構造があり、そこに十分な水が供給される。
その条件がそろっていることが、西条の特徴である。
西条市の上水道普及率は約47%。
半数以上の家庭が地下水をそのまま利用している。
さらに、西条市の上水道の水源も約9割が地下水である。
つまり、西条は「地下水を補助的に使っている街」ではなく、地下水そのものを基盤として都市が成り立っている。
生活用水、飲料水、工業用水、農業用水。
あらゆる水の出発点に地下水がある。
「地下水がある前提で、この街はできています」
仮に地下水が不安定になれば、影響は一部ではなく、地域全体に及ぶ。
水道料金の問題ではなく、生活の仕組みそのものが揺らぐ。
この構造があるからこそ、観測と予防が重要になる。
地下水は目に見えない。
そのため、西条市では地下水位の変動を市内23か所に設置された観測井で24時間把握している。
常時観測によって、わずかな変化もデータとして蓄積される。
「地下水は見えないので、数字で追うしかありません」
さらに、水質については70の一般家庭の協力を得て、継続的に検査を実施している。
家庭井戸の水質を長期的に確認することで、地域全体の変化を把握している。
「何も起きていない、ということを確認する作業です」
地下水は一度変化すると回復に時間がかかる。
だからこそ、初期の兆候を見逃さないことが重要になる。

地下水は安定しているように見えても、一度バランスが崩れると回復に時間がかかる。
日本各地では、過去に地下水位の低下による地盤沈下が発生している。
沿岸部では塩水化が進行し、井戸水が利用できなくなった地域もある。
地下水は「見えない」ため、変化が目に見える頃にはすでに進行していることが多い。
「西条が例外であり続ける保証はありません」
他地域で起きたことは、西条でも起こり得る可能性として考えている。
西条の地下水は、防災という観点では強みになる。
各家庭に井戸があるため、地震や断水が起きても、電力が復旧すれば水を利用できる。
これは、上水道依存型の都市とは異なる点だ。
「他地域と比較すると、復旧は早い可能性があります」
しかし、その強みは地下水が安定していることが前提だ。
もし地下水位が低下していれば、井戸があっても水は出ない。
強みは、維持されて初めて強みになる。
ここから先は、「今すぐ困っている話」ではない。
でも青野さんが、常に頭の片隅に置いている前提でもある。
地下水は、今たくさん出ている。
ただし、「出ているから大丈夫」とは考えない。
「この使い方を続けたらどうなるか、を見ます」
特に大量にくみ上げる場合、影響はすぐには表に出ない。
地下水位が下がると、井戸が使えなくなったり、湧水量が減ったりする。
「一度下がると、元に戻るまで時間がかかります」
気づいたときには、すでに進んでいることが多い。
西条は、海に近い平野部に市街地が広がっている。
水位が下がると、海水が地下から入り込む可能性がある。
「起きてほしくないケースのひとつですね」
一度起きると、元に戻すのは簡単ではない。

地下水は、井戸を持つ人だけのものではない。
「地域公水という考え方をしています」
井戸は個人の所有物でも、地下でつながっている水は地域全体で共有されている。
一部の過剰利用は、地域全体に影響を及ぼす可能性がある。
だからこそ、地下水は“私水”ではなく“公水”という考え方になる。
行政が一方的に管理するのではなく、利用者全体で支える。
「市民や事業者の理解と協力が不可欠です」
地下水をどう守るのか、と聞かれることがある。
「守るというより、育てる感覚のほうが近いと思っています」
地下水はダムのように直接管理できるものではない。
山に降った雨が地下に染み込み、時間をかけて平野部に届く。
「今日の使い方が、すぐに結果として見えるわけではありません」
だからこそ、雨が浸透できる環境を保つこと、汚染を広げないこと、必要以上にくみ上げないこと。
それを積み重ねていくしかない。
「行政だけで守れるものではありません」
地下水は、長い時間をかけて循環している。
育水という言葉は、その時間の感覚を含んでいる。
西条にとって水は誇りである。
名水百選やうちぬきは、象徴的な存在だ。
しかし、誇りは単なるブランドではない。
「誇りは、使い方も含めてだと思います」
特別視するだけでなく、過度に消費することなく、日常として丁寧に使い続ける。
水があることに慣れきってしまうのではなく、その背景にある条件を理解する。
「何も起きていない状態が続くことが、一番望ましいです」
地下水は、派手な成果ではなく、日常が続いていること自体が成果である。

March 2, 2026

青野 さや香さん
愛媛県西条市役所に所属する行政職員。
西条市 環境政策課にて、地下水をはじめとする水資源の保全や、森林・里山環境に関する施策を担当。
名水「うちぬき」を将来にわたって受け渡していくため、地下水保全条例や「育水」という考え方を軸に、市民・事業者との対話を重ねながら環境政策に取り組んでいる。
拠点:愛媛県西条市
所属:西条市 環境政策課
関連リンク:バーチャルミュージアム「水の歴史館」
ーーーーーーーーーー
西条では、地下水は特別なものではない。
蛇口をひねれば出るし、井戸を掘れば湧く。
うちぬきは観光資源である前に、日常の風景だ。
けれど、その水がどこから来て、どうやって保たれているのかを、私たちはあまり知らない。
山から地下へ、時間をかけて巡る水。
目に見えないその動きを、静かに見続けている人がいる。
西条市で地下水に関わる業務を担当する青野さんに、この街の水の仕組みと、今考えていることを聞いた。
ーーーーーーーーーー
西条市の地下水は、石鎚山系に降る雨や雪から始まります。
「西日本最高峰の石鎚山を含む山々に降った水が、長い年月をかけて地下を通り、平野部に到達します」
平野部には、水を大量に蓄えることができる帯水層が存在している。
「恵まれたことに、平野部に水を溜められる地下構造があります」
その帯水層に水が蓄えられ、条件が整うことで自噴が起きる。
「それが西条のうちぬきです」
もうひとつの条件が、山側の降水量だ。
石鎚山系は、平野部のおよそ3倍の雨が降ると言われている。
「地下構造と降水量、その両方が重なって、今の地下水があります」
地下を通る過程は天然のフィルターのような役割を果たす。
「地下で磨かれて、平野部で湧き出します」
山に水があるだけでは足りない。
平野部に蓄える構造があり、そこに十分な水が供給される。
その条件がそろっていることが、西条の特徴である。
西条市の上水道普及率は約47%。
半数以上の家庭が地下水をそのまま利用している。
さらに、西条市の上水道の水源も約9割が地下水である。
つまり、西条は「地下水を補助的に使っている街」ではなく、地下水そのものを基盤として都市が成り立っている。
生活用水、飲料水、工業用水、農業用水。
あらゆる水の出発点に地下水がある。
「地下水がある前提で、この街はできています」
仮に地下水が不安定になれば、影響は一部ではなく、地域全体に及ぶ。
水道料金の問題ではなく、生活の仕組みそのものが揺らぐ。
この構造があるからこそ、観測と予防が重要になる。
地下水は目に見えない。
そのため、西条市では地下水位の変動を市内23か所に設置された観測井で24時間把握している。
常時観測によって、わずかな変化もデータとして蓄積される。
「地下水は見えないので、数字で追うしかありません」
さらに、水質については70の一般家庭の協力を得て、継続的に検査を実施している。
家庭井戸の水質を長期的に確認することで、地域全体の変化を把握している。
「何も起きていない、ということを確認する作業です」
地下水は一度変化すると回復に時間がかかる。
だからこそ、初期の兆候を見逃さないことが重要になる。

地下水は安定しているように見えても、一度バランスが崩れると回復に時間がかかる。
日本各地では、過去に地下水位の低下による地盤沈下が発生している。
沿岸部では塩水化が進行し、井戸水が利用できなくなった地域もある。
地下水は「見えない」ため、変化が目に見える頃にはすでに進行していることが多い。
「西条が例外であり続ける保証はありません」
他地域で起きたことは、西条でも起こり得る可能性として考えている。
西条の地下水は、防災という観点では強みになる。
各家庭に井戸があるため、地震や断水が起きても、電力が復旧すれば水を利用できる。
これは、上水道依存型の都市とは異なる点だ。
「他地域と比較すると、復旧は早い可能性があります」
しかし、その強みは地下水が安定していることが前提だ。
もし地下水位が低下していれば、井戸があっても水は出ない。
強みは、維持されて初めて強みになる。
ここから先は、「今すぐ困っている話」ではない。
でも青野さんが、常に頭の片隅に置いている前提でもある。
地下水は、今たくさん出ている。
ただし、「出ているから大丈夫」とは考えない。
「この使い方を続けたらどうなるか、を見ます」
特に大量にくみ上げる場合、影響はすぐには表に出ない。
地下水位が下がると、井戸が使えなくなったり、湧水量が減ったりする。
「一度下がると、元に戻るまで時間がかかります」
気づいたときには、すでに進んでいることが多い。
西条は、海に近い平野部に市街地が広がっている。
水位が下がると、海水が地下から入り込む可能性がある。
「起きてほしくないケースのひとつですね」
一度起きると、元に戻すのは簡単ではない。

地下水は、井戸を持つ人だけのものではない。
「地域公水という考え方をしています」
井戸は個人の所有物でも、地下でつながっている水は地域全体で共有されている。
一部の過剰利用は、地域全体に影響を及ぼす可能性がある。
だからこそ、地下水は“私水”ではなく“公水”という考え方になる。
行政が一方的に管理するのではなく、利用者全体で支える。
「市民や事業者の理解と協力が不可欠です」
地下水をどう守るのか、と聞かれることがある。
「守るというより、育てる感覚のほうが近いと思っています」
地下水はダムのように直接管理できるものではない。
山に降った雨が地下に染み込み、時間をかけて平野部に届く。
「今日の使い方が、すぐに結果として見えるわけではありません」
だからこそ、雨が浸透できる環境を保つこと、汚染を広げないこと、必要以上にくみ上げないこと。
それを積み重ねていくしかない。
「行政だけで守れるものではありません」
地下水は、長い時間をかけて循環している。
育水という言葉は、その時間の感覚を含んでいる。
西条にとって水は誇りである。
名水百選やうちぬきは、象徴的な存在だ。
しかし、誇りは単なるブランドではない。
「誇りは、使い方も含めてだと思います」
特別視するだけでなく、過度に消費することなく、日常として丁寧に使い続ける。
水があることに慣れきってしまうのではなく、その背景にある条件を理解する。
「何も起きていない状態が続くことが、一番望ましいです」
地下水は、派手な成果ではなく、日常が続いていること自体が成果である。

March 2, 2026

青野 さや香さん
愛媛県西条市役所に所属する行政職員。
西条市 環境政策課にて、地下水をはじめとする水資源の保全や、森林・里山環境に関する施策を担当。
名水「うちぬき」を将来にわたって受け渡していくため、地下水保全条例や「育水」という考え方を軸に、市民・事業者との対話を重ねながら環境政策に取り組んでいる。
拠点:愛媛県西条市
所属:西条市 環境政策課
関連リンク:バーチャルミュージアム「水の歴史館」
ーーーーーーーーーー
西条では、地下水は特別なものではない。
蛇口をひねれば出るし、井戸を掘れば湧く。
うちぬきは観光資源である前に、日常の風景だ。
けれど、その水がどこから来て、どうやって保たれているのかを、私たちはあまり知らない。
山から地下へ、時間をかけて巡る水。
目に見えないその動きを、静かに見続けている人がいる。
西条市で地下水に関わる業務を担当する青野さんに、この街の水の仕組みと、今考えていることを聞いた。
ーーーーーーーーーー
西条市の地下水は、石鎚山系に降る雨や雪から始まります。
「西日本最高峰の石鎚山を含む山々に降った水が、長い年月をかけて地下を通り、平野部に到達します」
平野部には、水を大量に蓄えることができる帯水層が存在している。
「恵まれたことに、平野部に水を溜められる地下構造があります」
その帯水層に水が蓄えられ、条件が整うことで自噴が起きる。
「それが西条のうちぬきです」
もうひとつの条件が、山側の降水量だ。
石鎚山系は、平野部のおよそ3倍の雨が降ると言われている。
「地下構造と降水量、その両方が重なって、今の地下水があります」
地下を通る過程は天然のフィルターのような役割を果たす。
「地下で磨かれて、平野部で湧き出します」
山に水があるだけでは足りない。
平野部に蓄える構造があり、そこに十分な水が供給される。
その条件がそろっていることが、西条の特徴である。
西条市の上水道普及率は約47%。
半数以上の家庭が地下水をそのまま利用している。
さらに、西条市の上水道の水源も約9割が地下水である。
つまり、西条は「地下水を補助的に使っている街」ではなく、地下水そのものを基盤として都市が成り立っている。
生活用水、飲料水、工業用水、農業用水。
あらゆる水の出発点に地下水がある。
「地下水がある前提で、この街はできています」
仮に地下水が不安定になれば、影響は一部ではなく、地域全体に及ぶ。
水道料金の問題ではなく、生活の仕組みそのものが揺らぐ。
この構造があるからこそ、観測と予防が重要になる。
地下水は目に見えない。
そのため、西条市では地下水位の変動を市内23か所に設置された観測井で24時間把握している。
常時観測によって、わずかな変化もデータとして蓄積される。
「地下水は見えないので、数字で追うしかありません」
さらに、水質については70の一般家庭の協力を得て、継続的に検査を実施している。
家庭井戸の水質を長期的に確認することで、地域全体の変化を把握している。
「何も起きていない、ということを確認する作業です」
地下水は一度変化すると回復に時間がかかる。
だからこそ、初期の兆候を見逃さないことが重要になる。

地下水は安定しているように見えても、一度バランスが崩れると回復に時間がかかる。
日本各地では、過去に地下水位の低下による地盤沈下が発生している。
沿岸部では塩水化が進行し、井戸水が利用できなくなった地域もある。
地下水は「見えない」ため、変化が目に見える頃にはすでに進行していることが多い。
「西条が例外であり続ける保証はありません」
他地域で起きたことは、西条でも起こり得る可能性として考えている。
西条の地下水は、防災という観点では強みになる。
各家庭に井戸があるため、地震や断水が起きても、電力が復旧すれば水を利用できる。
これは、上水道依存型の都市とは異なる点だ。
「他地域と比較すると、復旧は早い可能性があります」
しかし、その強みは地下水が安定していることが前提だ。
もし地下水位が低下していれば、井戸があっても水は出ない。
強みは、維持されて初めて強みになる。
ここから先は、「今すぐ困っている話」ではない。
でも青野さんが、常に頭の片隅に置いている前提でもある。
地下水は、今たくさん出ている。
ただし、「出ているから大丈夫」とは考えない。
「この使い方を続けたらどうなるか、を見ます」
特に大量にくみ上げる場合、影響はすぐには表に出ない。
地下水位が下がると、井戸が使えなくなったり、湧水量が減ったりする。
「一度下がると、元に戻るまで時間がかかります」
気づいたときには、すでに進んでいることが多い。
西条は、海に近い平野部に市街地が広がっている。
水位が下がると、海水が地下から入り込む可能性がある。
「起きてほしくないケースのひとつですね」
一度起きると、元に戻すのは簡単ではない。

地下水は、井戸を持つ人だけのものではない。
「地域公水という考え方をしています」
井戸は個人の所有物でも、地下でつながっている水は地域全体で共有されている。
一部の過剰利用は、地域全体に影響を及ぼす可能性がある。
だからこそ、地下水は“私水”ではなく“公水”という考え方になる。
行政が一方的に管理するのではなく、利用者全体で支える。
「市民や事業者の理解と協力が不可欠です」
地下水をどう守るのか、と聞かれることがある。
「守るというより、育てる感覚のほうが近いと思っています」
地下水はダムのように直接管理できるものではない。
山に降った雨が地下に染み込み、時間をかけて平野部に届く。
「今日の使い方が、すぐに結果として見えるわけではありません」
だからこそ、雨が浸透できる環境を保つこと、汚染を広げないこと、必要以上にくみ上げないこと。
それを積み重ねていくしかない。
「行政だけで守れるものではありません」
地下水は、長い時間をかけて循環している。
育水という言葉は、その時間の感覚を含んでいる。
西条にとって水は誇りである。
名水百選やうちぬきは、象徴的な存在だ。
しかし、誇りは単なるブランドではない。
「誇りは、使い方も含めてだと思います」
特別視するだけでなく、過度に消費することなく、日常として丁寧に使い続ける。
水があることに慣れきってしまうのではなく、その背景にある条件を理解する。
「何も起きていない状態が続くことが、一番望ましいです」
地下水は、派手な成果ではなく、日常が続いていること自体が成果である。
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