August 15, 2026

Little Branch代表/TRUNK代表。
大学・大学院で森林科学を学び、卒業後は素材メーカーで木材由来の新素材開発に携わる。
その後、愛媛県内の森林関連会社での勤務を経て、2018年に愛媛の森の恵みを暮らしに届けるブランド「Little Branch」を立ち上げる。
木のアクセサリーや木のおもちゃ、原木椎茸を使った食品などを通して、森と日常の接点をつくるほか、TRUNKでは「ミクロ林業」をテーマに、森の現場に近いプロダクトづくりにも取り組んでいる。
近年は、森×ファッション、森×生き物観察などをテーマにしたイベント「Into the Forest」も展開し、森と人をつなぐ導線づくりを続けている。
拠点:愛媛県松山市
所属:Little Branch/TRUNK
関連リンク:Little Branch
ーーーーーーーーーー
小澤奏さんが手がけるLittle Branchには、愛媛県産の木を使ったアクセサリーや、木のおもちゃ、原木椎茸を使った食品などが並ぶ。
どれも、森を強く意識していない人でも、日常の中で自然に手に取れるものばかりだ。
一方で、TRUNKというブランドでは、より森の現場に近いところから木を扱う。
いつ、どこで、誰が切ったのか。
その背景まで見える丸太に価値をつける「ミクロ林業」という考え方を掲げ、森と人の距離をもう一段近づけようとしている。
さらに「Into the Forest」では、森×ファッション、森×生き物観察、森×イベントのように、さまざまな入口から実際に人が森へ入るための導線をつくっている。
小澤さんは、自身の活動をこう表現する。
「日常を半歩、森に近づける」
森を特別な場所に閉じ込めるのではなく、暮らしの中に少しずつ届けていく。
その仕事の背景には、森林科学を学び、素材研究に携わり、林業の現場を見てきた小澤さんの実感があった。
ーーーーーーーーーー
小澤さんが、最初から林業やものづくりを目指していたわけではない。
大学では農学部へ進み、その後、森林を専攻した。
「農学部って幅が広くて、海洋系や応用生物系もあったんです。
深海の微生物にもロマンを感じていたので、海か森林かで迷ったんですよ」
その中で印象に残ったのが、森林を専門とする先生の授業だった。
日本が持っている資源の中で、森林は人の手で再生可能な資源である。
これから森林の時代が来る。
そんな話を聞き、「森林は面白そうだ」と思ったという。
その後、大学の演習林に入る実習を通して、森は知識だけではなく、身体で感じるものになっていった。
「森の中で、だいたい遊んだことしか覚えてないんですけど」
そう笑いながらも、その時間は小澤さんの中に強く残っている。
「肌感覚として、森林に関わる仕事をしたいなと思いました」
都会育ちだった小澤さんにとって、森は日常とは違う感覚を使う場所だった。
街は人が暮らしやすいように整えられている。
けれど森に入ると、人間の方がお邪魔する側になる。
足元を見て、音を聞き、空気を感じる。
自分の安全は、自分で守らなければならない。
「森林って、街で暮らしていると一番近い異世界だと思うんです。
森の中に行くと、街とは全然違う感覚を使う。
野生がちょっと刺激されるというか。
自分の中に野生があったんだ、みたいな」
森は遠い自然ではなく、人の身体感覚を少しだけ取り戻させる場所でもあった。
大学では、森をフィールドとして歩き回る研究ではなく、木の遺伝子解析など、ラボに近い研究に取り組んでいた。
卒業後は、大手素材メーカーに就職。
木材から新しい素材をつくる研究に携わった。
「木に関わる研究ではあるけど、現場とは結構離れているんです。
研究は研究ですごく面白かったんですけど、もっと林業とか森林の現場のことも知りたいなと思って」
その後、愛媛で森林関連会社に入り、より現場に近い仕事に関わるようになる。
そこで見えてきたのは、森や木材を仕事にすることの現実だった。
「山登りに行くとか、森を純粋に楽しむだけならよかったんです。
でも、木材とか森林を仕事にしようとなると、やっぱり厳しいですよね」
森が好きであることと、森に関わる仕事を続けていくこと。
その間には、大きな隔たりがある。
小澤さんの活動は、その隔たりに対する、自分なりのアプローチでもある。
Little Branchの始まりは、原木椎茸だった。
森林関連会社に勤めていた頃、会社の中に新しく企画事業部ができた。
何をするかは、まだ決まっていなかった。
その中で小澤さんは、愛媛の森林資源を生かす商品づくりに取り組むようになる。
「その会社では原木の干し椎茸も扱っていたんです。
ただ、生産者も減っているし、消費量も減っている。
わざわざ干し椎茸を戻して食べる人も少ないから、加工品にしてみようかというところから始まりました」
ただ、一つの商品をつくるだけではもったいない。
そこで、ブランドそのものを立ち上げることになった。
それがLittle Branchだった。
最初の商品は、原木椎茸を使った加工品。
その後、愛媛県産の木を使ったアクセサリーや木のおもちゃへと展開していった。
「最初から、愛媛の木を使った商品も増やしていきたいという気持ちはありました」
原木椎茸から始まり、木のアクセサリー、木のおもちゃへ。
Little Branchは、森の恵みを日常の中へ届けるための小さな入口として、少しずつ広がっていった。

Little Branchのプロダクトは、森や林業に関心のある人だけに向けられているわけではない。
むしろ、森に関心がない人にも届くことを大切にしている。
木のアクセサリーは、その象徴のような存在だ。
「アクセサリーは、木が好きな人も見てくれるし、県産材という言葉に馴染みがない人でも、かわいければ手に取ってくれるんです」
森や木に関わるものづくりは、どうしても木材や林業の世界の中だけで語られがちになる。
けれど、それだけでは出会える人が限られてしまう。
だから小澤さんは、ファッションや暮らしの側から森との接点をつくろうとしている。
「木材業界みたいな中だけでやっていたら、もうきついと思っていたんです。
アクセサリーはファッションにもまたがってくれる。
そういう意味では、フックになる商品だと思っています」
小さな木片を身につけること。
木のおもちゃで遊ぶこと。
椎茸を食べること。
森を大きなテーマとして考えるより前に、暮らしの中で森に触れる入口がある。
かわいいと思って手に取ったものが、実は愛媛の木でできている。
その順番を、小澤さんは大切にしている。
愛媛県は、森林の多い地域であり、林業も盛んな地域だ。
けれど、森が身近にあるからこそ、木の価値は見えにくくなることもある。
「愛媛は自然が豊かすぎるから、みんな木にありがたみがないんです。
その辺に転がっていると思っている。
だから、私の商品も高いと言われることもあります。」
西条の水がそうであるように、恵まれているものほど、価値として意識されにくい。
地域の木を使うことには、もちろん意味がある。
その地域の木を使うことは、その地域の山に手が入ることにつながる。
ただ、小澤さんは、地域材を使うことを過度に正義として語るわけではない。
「他の地域の木を使うのがダメというつもりはないんです。
木の魅力はいろいろあるので」
それでも、Little Branchでは愛媛の木を使う。
理由はシンプルだ。
自分が欲しいと思える、地域の木のものがなかったから。
「県産材で、自分が身につけたいと思えるデザインのものがなかったんです。
だったら、自分が欲しいと思えるものをつくろうと思いました」
地域材を使うことは、地域のためであると同時に、自分自身がほしい暮らしの形をつくることでもあった。

Little Branchが暮らしに近い入口だとすれば、TRUNKはもう少し森の現場に近い。
きっかけは、Little Branchを続けながら林業の現場に入ったことだった。
小澤さんは、週に数日、林業の現場で働いていた時期がある。
そこで林業の厳しさを目の当たりにした。
その後、愛媛大学のリカレントコースで、林業や木材、建築について学び直した。
その中で、自分なりの林業の形を考えるようになる。
国の方向性としては、大型機械を入れ、大規模化・集約化を進める流れがある。
けれど小澤さんは、あえてその逆を考えた。
「持っているのはチェンソーだけなんです。
でも、丸太の輪切りだったら、道がなくても、機械がなくても、手で運んで持ち出せる。
この丸太に最大の価値をつけるというのが、いちばん小さい林業としての形なんじゃないかと思いました」
いつ、どこで、誰が切った木なのか。
その背景まで見える丸太に価値をつける。
大きく流通させるのではなく、使い手と直接つながる。
小澤さんは、それを「ミクロ林業」と呼んでいる。
TRUNKは、Little Branchよりも少し尖ったブランドだ。
広く多くの人に手に取ってもらうというより、森の現場に近い価値を、より深く伝えるための試みでもある。
「丸太だけじゃなくて、枝葉とか、森林空間そのものも含めて価値をつけていく。
Into the Forestも、そこに入ってくると思っています」
木を切ること。運ぶこと。使うこと。
その一つひとつを小さく捉え直すことで、森との関わり方をもう一度つくろうとしている。

Into the Forestは、実際に人が森へ入るためのイベントだ。
東温市の山間部にある、元畑の広場と古民家、そしてそこから入っていける森。
小澤さんは、その場所の魅力をこう話す。
「広場があって、古民家もあって、そこから歩いて森に入れる場所があるんです。
森でイベントをしたいと思っても、駐車場や屋内の休憩場所まで考えると、なかなか場所がない。
だから、あの場所は恵まれています」
森のTシャツ展では、森とファッションを組み合わせた。
生き物観察会では、子どもたちが森の生き物に触れた。
けれど、森をイベントの場所として使い続けることは簡単ではない。
草刈りや管理には手間がかかる。
地域住民との関係も必要になる。
「昔からその地域の人が守ってきた場所だという意識があるんです。
それを理解しないといけない」
森を開くことは、ただ人を呼ぶことではない。
その場所を使い続けるには、地域の感覚を知り、少しずつ信頼を重ねていく必要がある。
全部の地域が賑わえばいいわけではない。
静かに終わりたい地域もある。
それでも、小澤さんは、できる場所で、できる形を探している。

Little Branchには、子どもに近いプロダクトもある。
愛媛県産の木を使ったカスタネット「キノネ」もその一つだ。
小澤さんが大切にしているのは、子どもの頃から本物の木に触れること。
「現代の暮らしって、木に触れる機会が本当に少ないんです」
部屋の床や家具に木目があっても、それは木目調のシートかもしれない。
無垢材のように見えても、ウレタン塗装がかかっていることも多い。
木のものがあるようで、木そのものに触れる機会は少ない。
「機会がなければ、好きになることもないでしょう、と思うんです」
Little Branchのプロダクトは、基本的に無塗装の無垢材や、オイル仕上げに近い形でつくられている。
木の表面に直接触れること。
削ったり、磨いたりすること。
それは、森を知識として学ぶより前の、もっと手前にある体験だ。
Into the Forestでも、子どもたちは森の中で生き物を探した。
昆虫や鳥、植物に詳しい先生を招いた観察会では、「生き物博士になりたい」と話す子どもたちの姿もあった。
森を好きになる入口は、特別な教育でなくてもいい。
触ること。遊ぶこと。歩くこと。
そうした身体の経験の中に、森との関係は育っていく。

Little Branchでは、以前から「森と暮らす」という言葉を使ってきた。
けれど最近は、「日常を半歩森に近づける」という表現に変えている。
愛媛の森は、街から決して遠くない。
少し車を走らせれば、山も森も身近にある。
それでも、日々の暮らしの中では、森はどこか遠い存在になっている。
近いけれど、遠い。
小澤さんの活動は、その距離を少しだけ縮めようとしている。
プロダクトを通して、暮らしの中に森のものを送り込む。
イベントを通して、実際に森へ来てもらう。
森をいきなり特別な場所にするのではなく、日常の延長に置き直していく。
「日常を半歩、森に近づける」という言葉には、その距離感が表れている。
最後に、小澤さんにとって森とは何かを聞いた。
答えはとてもシンプルだった。
「森がないと生きていけませんから」
日本の国土の多くは森林である。
森は、水にも、大気にも、海にも関わっている。
どれだけ森から離れた暮らしをしているように見えても、日本で生きる限り、森と無関係ではいられない。
「いくら森とかけ離れた生活をしていても、森がないと、日本で生きている限りは成り立たない。
森は、逃れられないものだと思います」
森は、遠くにある自然ではない。
暮らしの背景であり、環境そのものでもある。
小澤さんは、街の中の緑についても話してくれた。
街路樹や庭、料理店の中にある立派な庭園。
そうした場所は、都市の中の小さなビオトープのような役割を持っている。
生き物の居場所になり、ヒートアイランドを和らげ、街の環境を支えている。
けれど、管理には手間もお金もかかる。
維持しきれなくなれば、埋めてしまおう、なくしてしまおう、となってしまう。
「埋めちゃったら終わりですからね。
街中の緑も、もうちょっと大事にした方がいいと思います」
森は山の中だけにあるものではない。
街の中にも、暮らしの中にも、森につながる小さな接点はある。
小澤さんの活動は、大きな仕組みを一気に変えるものではないかもしれない。
木のアクセサリーに使われる木材の量は、建築に比べればごくわずかだ。
丸太一枚に価値をつけるミクロ林業も、巨大な林業の流れから見れば小さな試みかもしれない。
けれど、その小ささにこそ意味がある。
森に関心がない人が、かわいいと思って木のアクセサリーを手に取る。
子どもが無垢の木のおもちゃに触れる。
森のイベントに足を運び、虫や鳥や植物に出会う。
いつ、どこで、誰が切った木なのかを知る。
それらはすべて、森との距離をほんの少しだけ縮める入口になる。
日常を、半歩だけ森に近づける。
その半歩の積み重ねが、森と人の関係をもう一度つくり直していくのかもしれない。

August 15, 2026

Little Branch代表/TRUNK代表。
大学・大学院で森林科学を学び、卒業後は素材メーカーで木材由来の新素材開発に携わる。
その後、愛媛県内の森林関連会社での勤務を経て、2018年に愛媛の森の恵みを暮らしに届けるブランド「Little Branch」を立ち上げる。
木のアクセサリーや木のおもちゃ、原木椎茸を使った食品などを通して、森と日常の接点をつくるほか、TRUNKでは「ミクロ林業」をテーマに、森の現場に近いプロダクトづくりにも取り組んでいる。
近年は、森×ファッション、森×生き物観察などをテーマにしたイベント「Into the Forest」も展開し、森と人をつなぐ導線づくりを続けている。
拠点:愛媛県松山市
所属:Little Branch/TRUNK
関連リンク:Little Branch
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小澤奏さんが手がけるLittle Branchには、愛媛県産の木を使ったアクセサリーや、木のおもちゃ、原木椎茸を使った食品などが並ぶ。
どれも、森を強く意識していない人でも、日常の中で自然に手に取れるものばかりだ。
一方で、TRUNKというブランドでは、より森の現場に近いところから木を扱う。
いつ、どこで、誰が切ったのか。
その背景まで見える丸太に価値をつける「ミクロ林業」という考え方を掲げ、森と人の距離をもう一段近づけようとしている。
さらに「Into the Forest」では、森×ファッション、森×生き物観察、森×イベントのように、さまざまな入口から実際に人が森へ入るための導線をつくっている。
小澤さんは、自身の活動をこう表現する。
「日常を半歩、森に近づける」
森を特別な場所に閉じ込めるのではなく、暮らしの中に少しずつ届けていく。
その仕事の背景には、森林科学を学び、素材研究に携わり、林業の現場を見てきた小澤さんの実感があった。
ーーーーーーーーーー
小澤さんが、最初から林業やものづくりを目指していたわけではない。
大学では農学部へ進み、その後、森林を専攻した。
「農学部って幅が広くて、海洋系や応用生物系もあったんです。
深海の微生物にもロマンを感じていたので、海か森林かで迷ったんですよ」
その中で印象に残ったのが、森林を専門とする先生の授業だった。
日本が持っている資源の中で、森林は人の手で再生可能な資源である。
これから森林の時代が来る。
そんな話を聞き、「森林は面白そうだ」と思ったという。
その後、大学の演習林に入る実習を通して、森は知識だけではなく、身体で感じるものになっていった。
「森の中で、だいたい遊んだことしか覚えてないんですけど」
そう笑いながらも、その時間は小澤さんの中に強く残っている。
「肌感覚として、森林に関わる仕事をしたいなと思いました」
都会育ちだった小澤さんにとって、森は日常とは違う感覚を使う場所だった。
街は人が暮らしやすいように整えられている。
けれど森に入ると、人間の方がお邪魔する側になる。
足元を見て、音を聞き、空気を感じる。
自分の安全は、自分で守らなければならない。
「森林って、街で暮らしていると一番近い異世界だと思うんです。
森の中に行くと、街とは全然違う感覚を使う。
野生がちょっと刺激されるというか。
自分の中に野生があったんだ、みたいな」
森は遠い自然ではなく、人の身体感覚を少しだけ取り戻させる場所でもあった。
大学では、森をフィールドとして歩き回る研究ではなく、木の遺伝子解析など、ラボに近い研究に取り組んでいた。
卒業後は、大手素材メーカーに就職。
木材から新しい素材をつくる研究に携わった。
「木に関わる研究ではあるけど、現場とは結構離れているんです。
研究は研究ですごく面白かったんですけど、もっと林業とか森林の現場のことも知りたいなと思って」
その後、愛媛で森林関連会社に入り、より現場に近い仕事に関わるようになる。
そこで見えてきたのは、森や木材を仕事にすることの現実だった。
「山登りに行くとか、森を純粋に楽しむだけならよかったんです。
でも、木材とか森林を仕事にしようとなると、やっぱり厳しいですよね」
森が好きであることと、森に関わる仕事を続けていくこと。
その間には、大きな隔たりがある。
小澤さんの活動は、その隔たりに対する、自分なりのアプローチでもある。
Little Branchの始まりは、原木椎茸だった。
森林関連会社に勤めていた頃、会社の中に新しく企画事業部ができた。
何をするかは、まだ決まっていなかった。
その中で小澤さんは、愛媛の森林資源を生かす商品づくりに取り組むようになる。
「その会社では原木の干し椎茸も扱っていたんです。
ただ、生産者も減っているし、消費量も減っている。
わざわざ干し椎茸を戻して食べる人も少ないから、加工品にしてみようかというところから始まりました」
ただ、一つの商品をつくるだけではもったいない。
そこで、ブランドそのものを立ち上げることになった。
それがLittle Branchだった。
最初の商品は、原木椎茸を使った加工品。
その後、愛媛県産の木を使ったアクセサリーや木のおもちゃへと展開していった。
「最初から、愛媛の木を使った商品も増やしていきたいという気持ちはありました」
原木椎茸から始まり、木のアクセサリー、木のおもちゃへ。
Little Branchは、森の恵みを日常の中へ届けるための小さな入口として、少しずつ広がっていった。

Little Branchのプロダクトは、森や林業に関心のある人だけに向けられているわけではない。
むしろ、森に関心がない人にも届くことを大切にしている。
木のアクセサリーは、その象徴のような存在だ。
「アクセサリーは、木が好きな人も見てくれるし、県産材という言葉に馴染みがない人でも、かわいければ手に取ってくれるんです」
森や木に関わるものづくりは、どうしても木材や林業の世界の中だけで語られがちになる。
けれど、それだけでは出会える人が限られてしまう。
だから小澤さんは、ファッションや暮らしの側から森との接点をつくろうとしている。
「木材業界みたいな中だけでやっていたら、もうきついと思っていたんです。
アクセサリーはファッションにもまたがってくれる。
そういう意味では、フックになる商品だと思っています」
小さな木片を身につけること。
木のおもちゃで遊ぶこと。
椎茸を食べること。
森を大きなテーマとして考えるより前に、暮らしの中で森に触れる入口がある。
かわいいと思って手に取ったものが、実は愛媛の木でできている。
その順番を、小澤さんは大切にしている。
愛媛県は、森林の多い地域であり、林業も盛んな地域だ。
けれど、森が身近にあるからこそ、木の価値は見えにくくなることもある。
「愛媛は自然が豊かすぎるから、みんな木にありがたみがないんです。
その辺に転がっていると思っている。
だから、私の商品も高いと言われることもあります。」
西条の水がそうであるように、恵まれているものほど、価値として意識されにくい。
地域の木を使うことには、もちろん意味がある。
その地域の木を使うことは、その地域の山に手が入ることにつながる。
ただ、小澤さんは、地域材を使うことを過度に正義として語るわけではない。
「他の地域の木を使うのがダメというつもりはないんです。
木の魅力はいろいろあるので」
それでも、Little Branchでは愛媛の木を使う。
理由はシンプルだ。
自分が欲しいと思える、地域の木のものがなかったから。
「県産材で、自分が身につけたいと思えるデザインのものがなかったんです。
だったら、自分が欲しいと思えるものをつくろうと思いました」
地域材を使うことは、地域のためであると同時に、自分自身がほしい暮らしの形をつくることでもあった。

Little Branchが暮らしに近い入口だとすれば、TRUNKはもう少し森の現場に近い。
きっかけは、Little Branchを続けながら林業の現場に入ったことだった。
小澤さんは、週に数日、林業の現場で働いていた時期がある。
そこで林業の厳しさを目の当たりにした。
その後、愛媛大学のリカレントコースで、林業や木材、建築について学び直した。
その中で、自分なりの林業の形を考えるようになる。
国の方向性としては、大型機械を入れ、大規模化・集約化を進める流れがある。
けれど小澤さんは、あえてその逆を考えた。
「持っているのはチェンソーだけなんです。
でも、丸太の輪切りだったら、道がなくても、機械がなくても、手で運んで持ち出せる。
この丸太に最大の価値をつけるというのが、いちばん小さい林業としての形なんじゃないかと思いました」
いつ、どこで、誰が切った木なのか。
その背景まで見える丸太に価値をつける。
大きく流通させるのではなく、使い手と直接つながる。
小澤さんは、それを「ミクロ林業」と呼んでいる。
TRUNKは、Little Branchよりも少し尖ったブランドだ。
広く多くの人に手に取ってもらうというより、森の現場に近い価値を、より深く伝えるための試みでもある。
「丸太だけじゃなくて、枝葉とか、森林空間そのものも含めて価値をつけていく。
Into the Forestも、そこに入ってくると思っています」
木を切ること。運ぶこと。使うこと。
その一つひとつを小さく捉え直すことで、森との関わり方をもう一度つくろうとしている。

Into the Forestは、実際に人が森へ入るためのイベントだ。
東温市の山間部にある、元畑の広場と古民家、そしてそこから入っていける森。
小澤さんは、その場所の魅力をこう話す。
「広場があって、古民家もあって、そこから歩いて森に入れる場所があるんです。
森でイベントをしたいと思っても、駐車場や屋内の休憩場所まで考えると、なかなか場所がない。
だから、あの場所は恵まれています」
森のTシャツ展では、森とファッションを組み合わせた。
生き物観察会では、子どもたちが森の生き物に触れた。
けれど、森をイベントの場所として使い続けることは簡単ではない。
草刈りや管理には手間がかかる。
地域住民との関係も必要になる。
「昔からその地域の人が守ってきた場所だという意識があるんです。
それを理解しないといけない」
森を開くことは、ただ人を呼ぶことではない。
その場所を使い続けるには、地域の感覚を知り、少しずつ信頼を重ねていく必要がある。
全部の地域が賑わえばいいわけではない。
静かに終わりたい地域もある。
それでも、小澤さんは、できる場所で、できる形を探している。

Little Branchには、子どもに近いプロダクトもある。
愛媛県産の木を使ったカスタネット「キノネ」もその一つだ。
小澤さんが大切にしているのは、子どもの頃から本物の木に触れること。
「現代の暮らしって、木に触れる機会が本当に少ないんです」
部屋の床や家具に木目があっても、それは木目調のシートかもしれない。
無垢材のように見えても、ウレタン塗装がかかっていることも多い。
木のものがあるようで、木そのものに触れる機会は少ない。
「機会がなければ、好きになることもないでしょう、と思うんです」
Little Branchのプロダクトは、基本的に無塗装の無垢材や、オイル仕上げに近い形でつくられている。
木の表面に直接触れること。
削ったり、磨いたりすること。
それは、森を知識として学ぶより前の、もっと手前にある体験だ。
Into the Forestでも、子どもたちは森の中で生き物を探した。
昆虫や鳥、植物に詳しい先生を招いた観察会では、「生き物博士になりたい」と話す子どもたちの姿もあった。
森を好きになる入口は、特別な教育でなくてもいい。
触ること。遊ぶこと。歩くこと。
そうした身体の経験の中に、森との関係は育っていく。

Little Branchでは、以前から「森と暮らす」という言葉を使ってきた。
けれど最近は、「日常を半歩森に近づける」という表現に変えている。
愛媛の森は、街から決して遠くない。
少し車を走らせれば、山も森も身近にある。
それでも、日々の暮らしの中では、森はどこか遠い存在になっている。
近いけれど、遠い。
小澤さんの活動は、その距離を少しだけ縮めようとしている。
プロダクトを通して、暮らしの中に森のものを送り込む。
イベントを通して、実際に森へ来てもらう。
森をいきなり特別な場所にするのではなく、日常の延長に置き直していく。
「日常を半歩、森に近づける」という言葉には、その距離感が表れている。
最後に、小澤さんにとって森とは何かを聞いた。
答えはとてもシンプルだった。
「森がないと生きていけませんから」
日本の国土の多くは森林である。
森は、水にも、大気にも、海にも関わっている。
どれだけ森から離れた暮らしをしているように見えても、日本で生きる限り、森と無関係ではいられない。
「いくら森とかけ離れた生活をしていても、森がないと、日本で生きている限りは成り立たない。
森は、逃れられないものだと思います」
森は、遠くにある自然ではない。
暮らしの背景であり、環境そのものでもある。
小澤さんは、街の中の緑についても話してくれた。
街路樹や庭、料理店の中にある立派な庭園。
そうした場所は、都市の中の小さなビオトープのような役割を持っている。
生き物の居場所になり、ヒートアイランドを和らげ、街の環境を支えている。
けれど、管理には手間もお金もかかる。
維持しきれなくなれば、埋めてしまおう、なくしてしまおう、となってしまう。
「埋めちゃったら終わりですからね。
街中の緑も、もうちょっと大事にした方がいいと思います」
森は山の中だけにあるものではない。
街の中にも、暮らしの中にも、森につながる小さな接点はある。
小澤さんの活動は、大きな仕組みを一気に変えるものではないかもしれない。
木のアクセサリーに使われる木材の量は、建築に比べればごくわずかだ。
丸太一枚に価値をつけるミクロ林業も、巨大な林業の流れから見れば小さな試みかもしれない。
けれど、その小ささにこそ意味がある。
森に関心がない人が、かわいいと思って木のアクセサリーを手に取る。
子どもが無垢の木のおもちゃに触れる。
森のイベントに足を運び、虫や鳥や植物に出会う。
いつ、どこで、誰が切った木なのかを知る。
それらはすべて、森との距離をほんの少しだけ縮める入口になる。
日常を、半歩だけ森に近づける。
その半歩の積み重ねが、森と人の関係をもう一度つくり直していくのかもしれない。

August 15, 2026

Little Branch代表/TRUNK代表。
大学・大学院で森林科学を学び、卒業後は素材メーカーで木材由来の新素材開発に携わる。
その後、愛媛県内の森林関連会社での勤務を経て、2018年に愛媛の森の恵みを暮らしに届けるブランド「Little Branch」を立ち上げる。
木のアクセサリーや木のおもちゃ、原木椎茸を使った食品などを通して、森と日常の接点をつくるほか、TRUNKでは「ミクロ林業」をテーマに、森の現場に近いプロダクトづくりにも取り組んでいる。
近年は、森×ファッション、森×生き物観察などをテーマにしたイベント「Into the Forest」も展開し、森と人をつなぐ導線づくりを続けている。
拠点:愛媛県松山市
所属:Little Branch/TRUNK
関連リンク:Little Branch
ーーーーーーーーーー
小澤奏さんが手がけるLittle Branchには、愛媛県産の木を使ったアクセサリーや、木のおもちゃ、原木椎茸を使った食品などが並ぶ。
どれも、森を強く意識していない人でも、日常の中で自然に手に取れるものばかりだ。
一方で、TRUNKというブランドでは、より森の現場に近いところから木を扱う。
いつ、どこで、誰が切ったのか。
その背景まで見える丸太に価値をつける「ミクロ林業」という考え方を掲げ、森と人の距離をもう一段近づけようとしている。
さらに「Into the Forest」では、森×ファッション、森×生き物観察、森×イベントのように、さまざまな入口から実際に人が森へ入るための導線をつくっている。
小澤さんは、自身の活動をこう表現する。
「日常を半歩、森に近づける」
森を特別な場所に閉じ込めるのではなく、暮らしの中に少しずつ届けていく。
その仕事の背景には、森林科学を学び、素材研究に携わり、林業の現場を見てきた小澤さんの実感があった。
ーーーーーーーーーー
小澤さんが、最初から林業やものづくりを目指していたわけではない。
大学では農学部へ進み、その後、森林を専攻した。
「農学部って幅が広くて、海洋系や応用生物系もあったんです。
深海の微生物にもロマンを感じていたので、海か森林かで迷ったんですよ」
その中で印象に残ったのが、森林を専門とする先生の授業だった。
日本が持っている資源の中で、森林は人の手で再生可能な資源である。
これから森林の時代が来る。
そんな話を聞き、「森林は面白そうだ」と思ったという。
その後、大学の演習林に入る実習を通して、森は知識だけではなく、身体で感じるものになっていった。
「森の中で、だいたい遊んだことしか覚えてないんですけど」
そう笑いながらも、その時間は小澤さんの中に強く残っている。
「肌感覚として、森林に関わる仕事をしたいなと思いました」
都会育ちだった小澤さんにとって、森は日常とは違う感覚を使う場所だった。
街は人が暮らしやすいように整えられている。
けれど森に入ると、人間の方がお邪魔する側になる。
足元を見て、音を聞き、空気を感じる。
自分の安全は、自分で守らなければならない。
「森林って、街で暮らしていると一番近い異世界だと思うんです。
森の中に行くと、街とは全然違う感覚を使う。
野生がちょっと刺激されるというか。
自分の中に野生があったんだ、みたいな」
森は遠い自然ではなく、人の身体感覚を少しだけ取り戻させる場所でもあった。
大学では、森をフィールドとして歩き回る研究ではなく、木の遺伝子解析など、ラボに近い研究に取り組んでいた。
卒業後は、大手素材メーカーに就職。
木材から新しい素材をつくる研究に携わった。
「木に関わる研究ではあるけど、現場とは結構離れているんです。
研究は研究ですごく面白かったんですけど、もっと林業とか森林の現場のことも知りたいなと思って」
その後、愛媛で森林関連会社に入り、より現場に近い仕事に関わるようになる。
そこで見えてきたのは、森や木材を仕事にすることの現実だった。
「山登りに行くとか、森を純粋に楽しむだけならよかったんです。
でも、木材とか森林を仕事にしようとなると、やっぱり厳しいですよね」
森が好きであることと、森に関わる仕事を続けていくこと。
その間には、大きな隔たりがある。
小澤さんの活動は、その隔たりに対する、自分なりのアプローチでもある。
Little Branchの始まりは、原木椎茸だった。
森林関連会社に勤めていた頃、会社の中に新しく企画事業部ができた。
何をするかは、まだ決まっていなかった。
その中で小澤さんは、愛媛の森林資源を生かす商品づくりに取り組むようになる。
「その会社では原木の干し椎茸も扱っていたんです。
ただ、生産者も減っているし、消費量も減っている。
わざわざ干し椎茸を戻して食べる人も少ないから、加工品にしてみようかというところから始まりました」
ただ、一つの商品をつくるだけではもったいない。
そこで、ブランドそのものを立ち上げることになった。
それがLittle Branchだった。
最初の商品は、原木椎茸を使った加工品。
その後、愛媛県産の木を使ったアクセサリーや木のおもちゃへと展開していった。
「最初から、愛媛の木を使った商品も増やしていきたいという気持ちはありました」
原木椎茸から始まり、木のアクセサリー、木のおもちゃへ。
Little Branchは、森の恵みを日常の中へ届けるための小さな入口として、少しずつ広がっていった。

Little Branchのプロダクトは、森や林業に関心のある人だけに向けられているわけではない。
むしろ、森に関心がない人にも届くことを大切にしている。
木のアクセサリーは、その象徴のような存在だ。
「アクセサリーは、木が好きな人も見てくれるし、県産材という言葉に馴染みがない人でも、かわいければ手に取ってくれるんです」
森や木に関わるものづくりは、どうしても木材や林業の世界の中だけで語られがちになる。
けれど、それだけでは出会える人が限られてしまう。
だから小澤さんは、ファッションや暮らしの側から森との接点をつくろうとしている。
「木材業界みたいな中だけでやっていたら、もうきついと思っていたんです。
アクセサリーはファッションにもまたがってくれる。
そういう意味では、フックになる商品だと思っています」
小さな木片を身につけること。
木のおもちゃで遊ぶこと。
椎茸を食べること。
森を大きなテーマとして考えるより前に、暮らしの中で森に触れる入口がある。
かわいいと思って手に取ったものが、実は愛媛の木でできている。
その順番を、小澤さんは大切にしている。
愛媛県は、森林の多い地域であり、林業も盛んな地域だ。
けれど、森が身近にあるからこそ、木の価値は見えにくくなることもある。
「愛媛は自然が豊かすぎるから、みんな木にありがたみがないんです。
その辺に転がっていると思っている。
だから、私の商品も高いと言われることもあります。」
西条の水がそうであるように、恵まれているものほど、価値として意識されにくい。
地域の木を使うことには、もちろん意味がある。
その地域の木を使うことは、その地域の山に手が入ることにつながる。
ただ、小澤さんは、地域材を使うことを過度に正義として語るわけではない。
「他の地域の木を使うのがダメというつもりはないんです。
木の魅力はいろいろあるので」
それでも、Little Branchでは愛媛の木を使う。
理由はシンプルだ。
自分が欲しいと思える、地域の木のものがなかったから。
「県産材で、自分が身につけたいと思えるデザインのものがなかったんです。
だったら、自分が欲しいと思えるものをつくろうと思いました」
地域材を使うことは、地域のためであると同時に、自分自身がほしい暮らしの形をつくることでもあった。

Little Branchが暮らしに近い入口だとすれば、TRUNKはもう少し森の現場に近い。
きっかけは、Little Branchを続けながら林業の現場に入ったことだった。
小澤さんは、週に数日、林業の現場で働いていた時期がある。
そこで林業の厳しさを目の当たりにした。
その後、愛媛大学のリカレントコースで、林業や木材、建築について学び直した。
その中で、自分なりの林業の形を考えるようになる。
国の方向性としては、大型機械を入れ、大規模化・集約化を進める流れがある。
けれど小澤さんは、あえてその逆を考えた。
「持っているのはチェンソーだけなんです。
でも、丸太の輪切りだったら、道がなくても、機械がなくても、手で運んで持ち出せる。
この丸太に最大の価値をつけるというのが、いちばん小さい林業としての形なんじゃないかと思いました」
いつ、どこで、誰が切った木なのか。
その背景まで見える丸太に価値をつける。
大きく流通させるのではなく、使い手と直接つながる。
小澤さんは、それを「ミクロ林業」と呼んでいる。
TRUNKは、Little Branchよりも少し尖ったブランドだ。
広く多くの人に手に取ってもらうというより、森の現場に近い価値を、より深く伝えるための試みでもある。
「丸太だけじゃなくて、枝葉とか、森林空間そのものも含めて価値をつけていく。
Into the Forestも、そこに入ってくると思っています」
木を切ること。運ぶこと。使うこと。
その一つひとつを小さく捉え直すことで、森との関わり方をもう一度つくろうとしている。

Into the Forestは、実際に人が森へ入るためのイベントだ。
東温市の山間部にある、元畑の広場と古民家、そしてそこから入っていける森。
小澤さんは、その場所の魅力をこう話す。
「広場があって、古民家もあって、そこから歩いて森に入れる場所があるんです。
森でイベントをしたいと思っても、駐車場や屋内の休憩場所まで考えると、なかなか場所がない。
だから、あの場所は恵まれています」
森のTシャツ展では、森とファッションを組み合わせた。
生き物観察会では、子どもたちが森の生き物に触れた。
けれど、森をイベントの場所として使い続けることは簡単ではない。
草刈りや管理には手間がかかる。
地域住民との関係も必要になる。
「昔からその地域の人が守ってきた場所だという意識があるんです。
それを理解しないといけない」
森を開くことは、ただ人を呼ぶことではない。
その場所を使い続けるには、地域の感覚を知り、少しずつ信頼を重ねていく必要がある。
全部の地域が賑わえばいいわけではない。
静かに終わりたい地域もある。
それでも、小澤さんは、できる場所で、できる形を探している。

Little Branchには、子どもに近いプロダクトもある。
愛媛県産の木を使ったカスタネット「キノネ」もその一つだ。
小澤さんが大切にしているのは、子どもの頃から本物の木に触れること。
「現代の暮らしって、木に触れる機会が本当に少ないんです」
部屋の床や家具に木目があっても、それは木目調のシートかもしれない。
無垢材のように見えても、ウレタン塗装がかかっていることも多い。
木のものがあるようで、木そのものに触れる機会は少ない。
「機会がなければ、好きになることもないでしょう、と思うんです」
Little Branchのプロダクトは、基本的に無塗装の無垢材や、オイル仕上げに近い形でつくられている。
木の表面に直接触れること。
削ったり、磨いたりすること。
それは、森を知識として学ぶより前の、もっと手前にある体験だ。
Into the Forestでも、子どもたちは森の中で生き物を探した。
昆虫や鳥、植物に詳しい先生を招いた観察会では、「生き物博士になりたい」と話す子どもたちの姿もあった。
森を好きになる入口は、特別な教育でなくてもいい。
触ること。遊ぶこと。歩くこと。
そうした身体の経験の中に、森との関係は育っていく。

Little Branchでは、以前から「森と暮らす」という言葉を使ってきた。
けれど最近は、「日常を半歩森に近づける」という表現に変えている。
愛媛の森は、街から決して遠くない。
少し車を走らせれば、山も森も身近にある。
それでも、日々の暮らしの中では、森はどこか遠い存在になっている。
近いけれど、遠い。
小澤さんの活動は、その距離を少しだけ縮めようとしている。
プロダクトを通して、暮らしの中に森のものを送り込む。
イベントを通して、実際に森へ来てもらう。
森をいきなり特別な場所にするのではなく、日常の延長に置き直していく。
「日常を半歩、森に近づける」という言葉には、その距離感が表れている。
最後に、小澤さんにとって森とは何かを聞いた。
答えはとてもシンプルだった。
「森がないと生きていけませんから」
日本の国土の多くは森林である。
森は、水にも、大気にも、海にも関わっている。
どれだけ森から離れた暮らしをしているように見えても、日本で生きる限り、森と無関係ではいられない。
「いくら森とかけ離れた生活をしていても、森がないと、日本で生きている限りは成り立たない。
森は、逃れられないものだと思います」
森は、遠くにある自然ではない。
暮らしの背景であり、環境そのものでもある。
小澤さんは、街の中の緑についても話してくれた。
街路樹や庭、料理店の中にある立派な庭園。
そうした場所は、都市の中の小さなビオトープのような役割を持っている。
生き物の居場所になり、ヒートアイランドを和らげ、街の環境を支えている。
けれど、管理には手間もお金もかかる。
維持しきれなくなれば、埋めてしまおう、なくしてしまおう、となってしまう。
「埋めちゃったら終わりですからね。
街中の緑も、もうちょっと大事にした方がいいと思います」
森は山の中だけにあるものではない。
街の中にも、暮らしの中にも、森につながる小さな接点はある。
小澤さんの活動は、大きな仕組みを一気に変えるものではないかもしれない。
木のアクセサリーに使われる木材の量は、建築に比べればごくわずかだ。
丸太一枚に価値をつけるミクロ林業も、巨大な林業の流れから見れば小さな試みかもしれない。
けれど、その小ささにこそ意味がある。
森に関心がない人が、かわいいと思って木のアクセサリーを手に取る。
子どもが無垢の木のおもちゃに触れる。
森のイベントに足を運び、虫や鳥や植物に出会う。
いつ、どこで、誰が切った木なのかを知る。
それらはすべて、森との距離をほんの少しだけ縮める入口になる。
日常を、半歩だけ森に近づける。
その半歩の積み重ねが、森と人の関係をもう一度つくり直していくのかもしれない。
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